『吉川三国志』のために
最近の検索ワードを見ていたら何やら吉川三国志の古い版本に関する単語がやけに目立ちまして、おそらく同じ方なのでしょうか?随分珍しいことを検索されているなと思いましたが・・・もしまだうちのブログをご覧でしたら、自分の分かる範囲で書ければと思います。
もしかして、自分と同じように課題として吉川三国志をやってらっしゃる方でしょうか?
「三国志 初版本 古本 吉川英治 昭和17年発行」
吉川三国志の初版本は、自分も持ってるやつですが、これは第1巻が昭和15年に発行されています。
で、国会図書館の蔵書などを見ますと、どうやらその再版として昭和17年から出版されているものもあったようですね。いわゆる"初版"ではないんですけど、吉川三国志のエディションとしては最も早いものであることに変わりありませんので、貴重な本かと思います。
「三国志 吉川英治 昭和15年発刊」
これが、本当の意味での吉川三国志の最初の単行本です。以前ぼくがこちらの記事に載せたやつですね。
エディションとしての特徴は、戦前に発行された唯一の物ということ以外、具体的なところはまだ分かりません。野村愛正の三国志の例もありますし、何かしらありそうなのですが。そう言えば吉川英治は『宮本武蔵』を再刊にあたってちょっと手直ししていたような?
ちなみに昭和15年と言いますと、吉川三国志の連載開始が14年ですので、かなり早い単行本化かと思います。当時の吉川英治の人気っぷりが窺えます。
「三国志 初版本の価値 吉川 英治」
自分も気になる所です。
ぼくは全巻揃いで1400円で買いました。
一方で、『宮本武蔵』の初版本が、かなりの欠落アリでもなお数万単位だったのを見たことあります。どうして差がついたのか・・・。
「三国志 昭和21年発行の吉川英治」
吉川三国志の初版本は、昭和15年に第1巻が出版されてのち、昭和21年の第14巻でもって完結しています。
これはその最終巻のことでしょうか?それ以外に特に21年で思い当たることはないのですが、完結記念として講談社がまた再版でも行ったのかもしれませんね。
「三国志 吉川英治 評判」
どうなんでしょうね。
2ちゃんのログなんかを見ると、まあキツイ評価を下されていることが多いですけど、一方でmixiコミュなど見てると初心者向けの三国志として必ず名前が挙がっています。
自分の周辺の三国志猛者の方の中にも吉川三国志が本格的な三国志入門だった、という人が結構いらっしゃいますので、戦前の三国志ということを考えればその健在ぶりに驚かされます。
自分の印象ですと吉川三国志は、『通俗三国志』の一辺倒だった当時の"三国志"モノの集大成とも言える一方で、昭和後期になって出現する歴史小説としての"三国志"モノ、その先駆けとなるような特徴も備えているように思えます。そういう意味で、やはり近代三国志の最重要の一冊と言って間違いないでしょう。張郃がネタなどで、よく三国志的ケアレスミスを連発することをからかわれたりもしますけど、更に深く読み込んでみると、当時の三国志創作としては別格レベルの取材をしていたらしいことが窺えます。
それと、以前過去ログで「三国志演義に毛が生えたようなもん」という評価を見たことがあるんですけど、これはかなり的確な指摘ではないかとぼくは思います。なんだかんだ、やはり『通俗三国志』に沿って執筆していますので、ストーリー的な変化はありません。ただその生えてる毛が、吉川英治と言うすっごいブランド物の毛皮なのがコレのすごいところです。
なのでむしろ、もし三国志初心者の方が「三国志演義を読んでみたい」と言うならば、自分は吉川三国志を薦めますね。もちろん、正しい意味では三国志演義と吉川三国志は別物です。
ですけれどちゃんと三国志演義を読もうとしたところで、逐語訳では読みづらいですし、ダイジェスト版では面白味に欠けます。
対して吉川三国志は、確かに日本人的なフィルター、吉川的な補正がいろいろ掛ってはいます。しかし三国志演義全体の妙味は本書でも十分に味わうことができるとぼくは思います。また、やがてその方が更に本格的に三国志をやるようになって、三国志演義をちゃんと読んでみた時に初めて吉川的補正に気づいたら、それはまた楽しい発見になるのではないかと思うのです。