『李毛異同(4)』 ‐銅臭宰相
帝はまた趙忠等を封じて車騎將軍と為し、張讓等十三人を皆な列侯に封ず。(「毛本」第二回)
十常侍の専横を示すエピソードのひとつとして、「李卓吾本」ではここに太尉張温・司徒崔烈が十常侍に媚び賂して三公の位を得たという、いわゆる「銅臭宰相」のくだりを挿入しています。
毛宗崗本がこれを削った理由は、まあ単純に文字数削減のためかなと思います。
ただ一応それらしい理由を推してみますに、張温はこのあと第八回にて董卓に殺害されてしまう人物です。董卓の悪逆性を強調するためにも、それに殺される側に何らかの汚点を描きたくない、との意図かもしれません。
また崔烈ですが、彼の弟崔毅は第三回にて劉弁・劉協兄弟を保護するという役柄を担当しています。忠臣崔毅の兄として、銅臭のエピソードはよろしくないと思ったのかもしれません。なにしろ崔毅は「十常侍の売官に絶望して野に下った」というので・・・。
と考えますと、これは現代の自分の感覚での印象ですけど、むしろ「銅臭宰相」の一文は残した方が面白いのではと思います。
張温については、十常侍にへつらった佞臣が董卓という災厄を被ることは、自業自得の因果応報です。崔烈についても、そうなれば弟崔毅の「十常侍の売官に絶望して下野した」という台詞にも何とも言えない重みが増してしまうではないですか。