三国与太噺 season3

『三国志演義』や、吉川英治『三国志』や、日本の関帝廟なんかに興味があります。

「現代三国志」の女性たち  −三国志大戦3を中心に

 ふと思うところがあって、「三国志大戦3」に登場した女性人物を調べました。
 やたらマイナーな人物が多かったとプレイ当時も感じていたのですが、改めて調べてみると気になる傾向が見えてきました。
 以下は、三国志大戦シリーズでの登場順に並べて一覧にしています。また、その人物のカードが大戦3で何枚あるか、どんなレアリティかも付け加えました。当然枚数が多いほど、レアリティが高いほど重要視されてる人物と言えます。


ver1から参戦の人物

王異〈4枚(SR、SR、EX、GSR)〉
・郭皇后〈1枚(魏C)〉
・蔡文姫〈2枚(UC、GR)〉
・甄皇后(甄洛)〈4枚(SR、UC、R、R)〉
張春華〈4枚(SR、SR、UC、GSR)〉
・卞皇后〈1枚(UC)〉
・夏侯月姫〈2枚(C、EX)〉
・甘皇后〈1枚(UC)〉
黄月英〈2枚(UC、GSR)〉
孫尚香〈4枚(SR、R、SR、EX)〉
・糜夫人〈1枚(C)〉
・呉夫人〈2枚(SR、R)〉
小喬(5枚〈R、UC、SR、EX、EX〉)
大喬〈3枚(R、R、EX)〉
貂蝉〈2枚(SR、R)〉
・厳氏〈2枚(UC、EX)〉
・鄒〈4枚(R、UC、UC、EX)〉

ver1.1から参戦の人物

・呉国太〈1枚(R)〉
・徐夫人〈1枚(UC)〉
・何皇后〈1枚(C)〉
・呂姫〈4枚(R、R、EX、EX)〉

ver2から参戦の人物

関銀屏〈1枚(R)〉
・穆皇后〈1枚(C)〉
・周姫〈2枚(R、GSR)〉
・董白〈1枚(UC)〉
祝融〈4枚(SR、R、SR、SR)

ver2.1から参戦の人物

・賈南風〈1枚(SR)〉
・辛憲英〈1枚(UC)〉
・曹皇后〈1枚(SR)〉
・王桃〈1枚(UC)〉
敬哀皇后〈1枚(UC)〉
・張姫〈1枚(UC)〉
鮑三娘〈2枚(UC、C)〉
・小虎〈1枚(SR)〉
・大虎〈1枚(SR)〉
・樊氏〈1枚(C)〉

ver3.1から参戦の人物

・丁夫人〈1枚(UC)〉
・王美人〈1枚(SR)〉
・蔡夫人〈1枚(C)〉
・伏皇后〈1枚(UC)〉

ver3.5から参戦の人物

卑弥呼〈1枚(SR)〉
・王悦〈1枚(R)〉
・花鬘〈1枚(R)〉
・董貴人〈1枚(SR)〉

ver3.59から参戦の人物

・壱与〈1枚(UC)〉
王元姫〈1枚(UC)〉
・荀灌〈1枚(R)〉
・龐娥〈1枚(SR)〉
・諸葛鈴〈1枚(UC)〉
・馬姫〈1枚(SR)〉
・孫氏〈1枚(SR)〉
・歩夫人〈1枚(UC)〉
杜氏〈1枚(UC)〉
・袁姫〈1枚(SR)〉
・劉曼〈1枚(SR)〉


 いかがでしょうか?
 おまえだれだ、って人物がかなりいるんじゃないでしょうか。
 とくに最終バージョンでは、馬姫、孫氏、劉曼のように、文献に数文字しか記述がない、人物像もへったくれもないようなキャラがガンガン採用されてました。
 これはそもそも女性層が薄いという歴史モノのジレンマが原因だと思いますけど、でもどうやらそれだけじゃないらしい。これだけマイナーどころを攻めていながら、一方では登場していいはずの有名女性がいなかったりするからです。
 たとえば、正史でなら清河長公主、夏侯令女とか。演義なら徐庶母、馬邈妻とか。番外的ですけど、劉備の母や芙蓉姫とかだって。少なくとも董白とか関銀屏よりよっぽど「三国志」的に重要な人たちです。

 じゃあなんで、そうゆう固有のエピソードも持ってるような女性を差し置いて、文献に数文字しか登場しない超マイナー女性が採用されたのか。
 そこで、参戦女性のうちどう見ても超マイナーとしか思えない人を挙げてみれば、夏侯月姫、呂姫、関銀屏、周姫、董白、王桃、王悦、花鬘、諸葛鈴、馬姫、孫氏、袁姫、劉曼などでしょうけど、同時に彼女らにはひとつ共通点があります。
 それはいずれも有名人物の縁戚ってことです。とくに「○○の娘」がやたら多くありませんか?

 彼女らはみな、固有のエピソードも人物像も持っていません。しかし創作においては、「○○の娘」という一点だけでキャラが立つのです。たぶんこれが大変重要なことで、むしろ夏侯令女や糜夫人のような東洋学の知識がないと理解できない人物より、「○○の娘」っていう属性のほうがわかりやすいし、制作側もキャラクターを作りやすいのではないでしょうか。父親である有名武将の要素を含ませつつ、女性として登場させることができる、と。
 それが証拠に、上記のドマイナー女性たちは単なる数合わせではなく、レアリティもイラストも相当に気合の入ったキャラばかりです。劉曼なんかはその最たるもので、当時のトレード相場もそれはすごかった。

 こうゆう既存の三国志女性観を捨てて新たなキャラ属性を追及するというスタンスは、貂蝉、糜夫人の不遇ぶりからも見ることができます。王異張春華が4枚も出てるのに、あの糜夫人がコモン1枚だけってのは、『演義』から見ればまったく信じられない。貂蝉という『演義』において最重要視される女性ですら、2枚だけでした。
 しかしインスタントなキャラ萌えが勝負の世界では、そんなわずらわしい『演義』の価値観はお呼びじゃないのです。そんなことより関銀屏だし董白です。当然のことです。
 そしてこれは大戦だけじゃなく、おそらくサブカル的な三国志全体に言えることだと思います。試しにpixivでタグ検索したら、貂蝉は672件、董白は551件、関銀屏は701件、糜夫人は25件のイラストが投稿されてるって出ました。無双で長いこと登場してる貂蝉が、董白と関銀屏と五分。糜夫人に至っては比べるべくも無し。

 ところで最近、ソーシャルゲームで歴史モノが増えてきましたが、こうゆう界隈ではどうやら、既存の人物を女性化するって手法が流行ってるっぽいです。
 女性化と言えば『一騎当千』や『恋姫無双』が有名ですけど、これらは女性化それ自体を作品のコンセプトにしていました。でも最近の歴史ゲーはそうじゃなく、普通の武将が女性バージョンでしれっと出てくることが多々あります。普通の関羽ももちろんいるし、それとは別枠で関羽(女ver)もいる、という具合に。スクエニの「三国志乱舞」とか、アーケードゲームでは「戦国大戦」とかがそうでした。
 これも一種、「○○の娘」系マイナー女性の手法の延長だと思います。
 先に「○○の娘」の利点を、父親の要素を含ませつつ女性として登場させることができるって書きましたけど、これはある意味で既存武将の女性化とも言えるからです。董白は董卓の女性化であり、関銀屏関羽の女性化です。ソーシャルゲームらのやり方は、これをストレートにしただけなんです。
 これは、かなり興味深い傾向だと思います。

 「三国志」は、昔からその時代ごとの娯楽と共に歩んできた歴史があります。講話に「三国志」、雑劇に「三国志」、白話小説に「三国志」、江戸通俗文学に「三国志」、近代大衆小説に「三国志」、漫画に「三国志」、テレビドラマに「三国志」、アニメに「三国志」、コンピューターゲームに「三国志」。
 娯楽の最先端に常に「三国志」はあり、またその時代と社会に合わせて形も変えてきました。
 実は関羽諸葛亮が女性化するのは現代が初めてではありません。世のエンターテイメントがそうしろと言えば、そうなるのが「三国志」です。そうすることで、古典として長く長く愛され続けてくることができたわけです。
 そしてそれはつまり、「三国志」を通すことでその時代ごとの娯楽の姿を見ることができる、ということでもあります。いろんな時代の文学研究で「三国志」が利用されている所以です。