「三国志 Three kingdoms」全95話を観る その3
第3話「曹操、善人を誤殺す」
◆呂伯奢事件
前話の終盤から本話の前半まで、かなり尺を取ってましたね。
呂伯奢事件は、曹操の生涯の4つの汚点のひとつであり、これをどう描き、どう説明するかが、曹操を主軸にする物語にとっての大きな課題だと思います*1。
また演義では、この事件は曹操が奸雄としての本性を露わにする最初の場面です。それまでは一貫して能臣として描かれてきた曹操が、ここで初めて、倒すべき奸雄であると読者に示されるのです。
で、演義をベースにしつつ曹操に焦点を当てた本作。
事件のあらましはほとんど演義に沿ってますけど、曹操の描き方はだいぶ違ってました。もちろん、演義の有名な「私が天下を裏切ろうとも、天下に私を裏切らせはしない」などの"奸雄らしい"セリフは本作でもちゃんと残されています。「乱世では強者だけが仁義を語ることができるのだ」って言葉もいかにも奸雄然としています。
ただ一方で、呂伯奢を手にかける瞬間の曹操の表情、呂伯奢の死体を必死に隠そうとする曹操の姿からは、こうした行為が曹操にとって不本意であり、やむにやまれぬことなのだという様子が伝わってきます。
続く場面では、曹操が呂伯奢を弔い、陳宮がそれを欺瞞となじり、そして「お前が忠義の士なのか奸悪の徒なのかわからない」と詰問するのですが―これは演義にはないオリジナルのシーンです、これに対し曹操は明確な答えを返しません。この一連のやりとりを見ると、どうも本作の曹操は強いて奸雄を演じているように思えます。乱世という今の時代にあっては、自分は奸雄でなくてはならないと、曹操は己に課している。と、本作は描きたがっているようです。
本作の曹操はよく笑います。呂伯奢を殺した後も笑ってました。けどその笑いは、不本意な奸雄像をまとう自分自身を嗤うかのような、自嘲の笑いでした。
◆天子の偽勅を利用する曹操
演義では、曹操が諸侯に蜂起を呼び掛けるために利用された偽勅ですが、本作では連合結成と偽勅利用の先後が逆になって、諸侯の中で曹操が主導権を握るための道具として登場します。曹操の政治力の高さをよく表現しています。
◆劉備の反董卓連合参戦
劉備の本格的なお披露目です。本作の劉備は黄巾討伐には参加しておらず、この反董卓連合参戦が初陣だという設定のようです。しかも演義のように公孫瓚旗下として参戦するのではなく、諸侯の一員として名乗りを挙げようとしてます。えらい大胆な劉備です。
ところで、三国志の中でもっとも人物設定が難しい人物は誰でしょうか。
曹操は、実はわりとわかりやすいです。どんな作品コンセプトにしろ、曹操を主役にするにせよ悪玉にするにせよ、とりあえず測りがたい大人物にすれば曹操っぽくなります。……というと実際に作品を書いてる人に怒られそうです。ごめんなさい、僕は作品を作ったことがないので、あくまでも読者としての印象です。でも読者として見る限り、そんなに曹操の人物形象で悩んでそうな感じが、あんましないなと思うのです。言い換えれば、作品ごとでそんなに曹操像が割れることはないと感じるのです。
では諸葛亮か。たしかに諸葛亮はいろいろ難しそうです。作品によって結構諸葛亮像が違いますし。ただ諸葛亮が一番かと言うと、それはとある理由でたぶん違うだろうと思ってます。
僕は、創り手の方々が今一番頭を悩ませているのは、おそらく劉備なんじゃないかなと思ってます。
本作の劉備は、……よくわかんないですねえ。
ずっとくらーい表情のまま、まったく顔色を変えない劉備。諸侯からバカにされても、反論することなく、暗い表情を崩さない。何を考えてるのかわからない、底の知れない劉備です。
ただ、本話の中で唯一劉備が反応を示したのが、曹操が天子の偽勅を使って諸侯の中でまんまと主導権を握ったとき。これは面白いですね。
それに、関羽が華雄討伐の一番手に名乗り出ようとするのを制止したシーンも、印象的ですね。出しゃばるなと言おうとしたのか、それとも関羽という切り札を使うタイミングは今ではないと考えたのか。きっと後者でしょう。
本作の劉備は、結構な喰わせ者のようですね。
◆張飛「連合の中に兄者みたいに漢室の末裔がいるのか?」
劉備「いないだろう」
劉岱「」
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