「銅雀台(邦題:曹操暗殺 三国志外伝)」を観た
三国志だったらなんでもおもしろいおもしろい言う僕なんですけど、この「曹操暗殺」ばかりは...正直わかんなかったです。
時は建安二十四年暮れ。
滅亡間近の漢王朝を舞台に、董承の乱・伏皇后の乱・吉本の乱という3つの暗殺劇をモチーフにしたオリジナルストーリーが展開されます。
はたして、曹操の命を狙う黒幕は誰か?
伏皇后が?
献帝か?
それとも曹丕か?
そもそも曹操とは、本当に斃すべき悪なのだろうか?
そんな登場人物それぞれの思惑が絡み合う中から、少しずつ真実が紐解かれていくストーリー展開が本作の一番の見どころだと思うんですけど……。いかんせん、三国志を知ってる人にはどうしたって黒幕が分かっちゃうんですよね。
まあ原典がある以上それは避けられないことですし、そういう縛りがある中でもなんとか工夫をしている様子は脚本から窺えます。中盤まで曹丕が糸を引いているかのようなミスリードをしていることもそのひとつですし、何より曹操の側近の道化男が実は医者であること、実は吉太医その人であることも、視聴者にはギリギリまで明かさないようにしています。でも結局のところ、黒幕はやっぱり原典通り吉太医なわけで、ミスリードを連発した分、どうにも肩透かし感があるのは否めません。
そして「曹操は本当に悪なのか」というもうひとつのテーマにしたって...どうだろうこれは。そんな3周遅れの命題で、しかも出した答えは実に普段通りのいいヤツな曹操像。
今じゃ悪者曹操を探す方がよっぽど大変なのに、本作の曹操はものすっごい普通のいい男です。民に慕われる名君にして、すごく強い覇者であり、その上漢の忠臣でもある。それどころか良き父親でもあり、愛する女には一途な想いを向ける。どう考えたって盛りすぎです。役満か。とにかくめくら滅法に美化してみましたって感じで、ちょっと考えちゃいます。
つまり、三国志をちょっとばかし知ってちゃうと、最期までなんにも予想が裏切られないんです。そういう意味で、「三国志を知らなくても楽しめる」とはよく言いますけど、本作は「三国志を知らない方が楽しめる」なんです。ネットでレビューを探してみても、あんま三国志ファンのやつにあたらないのも、そういうことかなって思います。
もちろん、全体ではなく個々に目を向ければ面白いところもたくさんあるはずです。個人的には曹丕のキャラクターがけっこう好きです。献帝は見事にバカ君主でしたねぇ。あと玉木宏は文句なしにかっこよくて、あれしか出番がないのがもったいないくらいでした。アクションで言えば、僕は伏氏サイドの刺客がお気に入りです。まるでニンジャだ!
しかし、そうしたことに三国志的な意味があるかと言うと、ほぼないと言っていいと思います。曹丕がああいうキャラになるのはよくあることでしょう。曹操から武人気質を抜いた感じですね。曹操を持ち上げるために献帝をバカにするのも今に始まったことではありません。
たぶん、映画としてはよくできているはずです。そのあたりは僕には詳しくはわからないのですが、ただレビューでは好意的なものの方が目立ちましたし、僕にしても「退屈だなあ」とか思いながら観ていたわけではなく、けっこう楽しく観れました。
それでもやっぱり、これが三国志かというと、僕は首を傾げないわけにはいきません。ストーリーや演出はたぶんおもしろい。でもたとえば、この作品から固有名詞を全部取っ払っちゃって、中国とはぜんぜん違う国に舞台を移して、でも脚本はそのままに撮影し直しても、もしかしたらそれでもこの作品はおもしろいままなんじゃないだろうか……?
結局、この作品が三国志で何をやりたかったのか、作品を通して三国志に対し何を言おうとしていたのか、今の僕には考えてもわかりませんでした。。
いずれもっと三国志に詳しくなったらまた観たいと思います。