三国与太噺 season3

『三国志演義』や、吉川英治『三国志』や、日本の関帝廟なんかに興味があります。

袴田郁一/山本佳輝『マンガでわかる三国志』

 ずっと続けていたはてなダイアリーがサービス終了してしまうということで、この記事からは新しく、はてなブログで書いています。慣れないなあ。

 

 

 それではてなブログでの書き初めということで、思い出話から始めることをご勘弁ください。

 2年ちょっとくらい前、『マンガでわかる三国志』という本を書いた。

 それまでも一般書の執筆に関わらせてもらうことは何度かあったんだけど(当たり前だけど、そんな幸運は普通はない)、この本ではじめて、一冊丸ごとの文章を担当して、表紙にクレジットさせてもらえることになった(当たり前だけど、そんな幸運は全然あるものではない)。

 「マンガでわかる」ってタイトルのくせに、僕の文章が7割8割も占めるという、僕にとってはめちゃくちゃに贅沢なお仕事だった。おかげで、マンガ目当てで三国志を新しく知ろうというお客さんをがっかりさせることもあったようで、それについては平謝りするしかないのだけど(本当にごめんなさい)、けれど僕にとっては本当に楽しいお仕事だった。

 

 ひとつは、山本佳輝さんという漫画家さんと一緒に仕事ができたことが僕には楽しかった。

マンガでわかる三国志、発売! : てるピヨ。『山本佳輝のイロイロブログ』

 直接やり取りすることはなかったのだけど、送られてくるネームを読ませてもらって、一目でピンときた。この人は相当な三国志オタクだと。しかも僕と同じように、絶対『蒼天航路』でハマった人だと。

 ネームのあちこちに『蒼天航路』の匂いがぷんぷんだったし、曹操のキャラクターとか桃園の誓いとか呂布の最期の描き方なんてのが、「そうそう、今の日本のオタクのあいだだとそういうイメージで定着してるよな」っていうのがとても伝わってきた。同じ三国志キャリアを歩んできた人にはわかるだろう、ある種の三国志愛がひしひしと感じられた。絶対、僕と同世代かちょい上の先輩オタクだろうと確信していたし、実際、本が出たあとの山本さんのブログを見たら「無双2、蒼天航路恋姫無双三国志にハマった」って書いてあった。僕の勘はどんぴしゃだった。

 一応、本のコンセプトに合わせて、『三国志演義』にそぐわない描写やキャラクター造形は申し訳ないけどがっつりリテイクしてもらったけど、僕個人はとても楽しく読ませていただいた。執筆者特権だ。ズルい。漫画の仕事を手伝うとプロのネームから見れるっていう役得があるのだけど、このときほどそれを感じたことはなかった。送られてきたファイルは大事に保管している。

 お会いすることはなかったけど、同世代の三国志オタクとして、今でもひそかにシンパシーを感じている。

 

 そんな山本さんのネームに触発されたってだけではないけれど、僕の文章も僕の三国志愛を前面に出してしまった。

 企画段階ではこの本は、『演義』のストーリーをベースに史実の三国志を解説するという方向で提案をいただいていた。けど僕としては、そういう手の本はいくらでもあるし、ここは絶対に『三国志演義』の方をメインにした本にしたかった。

 『演義』そのものに踏み込んで、そのフィクションとして創作意図や、背景になっている三国志物語の多様性を解説する本は、僕の知る限りではかなり数が限られる。

 僕は三国時代歴史学の専門家でも『三国志演義』の専門家でもないし、ましてプロのライターでもない。でもこの世代の三国志ファンとしては、正直に言ってかなり自負するところがある。三国志物語の多様性という点についてなら、プロの三国志研究者を相手にしてもちょっとは引けを取らない自信がある。

 そういう人間から見た、『三国志演義』の物語としての面白さや豊かさに焦点を当てた本にできないかと、かなりワガママを通してもらってしまった。『三国志演義』は三国志をざっくりと知るだけのお手軽本でない、それ自体を深く読み込むことだってかなり楽しいんだぞって想いでひたすらに書いた。

 結果、できた本は「マンガでわかる三国志」っていう初心者向けっぽいタイトルとは裏腹に、小説やマンガで三国志を熟知した人たちに向けて、三国志世界のさらなる広がりを知ってもらいたいという、だいぶマニアックな本になった。おかげで編プロの人にはかなり迷惑をかけてしまった。でも文章をたくさん直してもらったり、的確な図解を入れてもらったおかげで、自分から見てもただのわかりづらいマニアの本ではなくなった。本当に迷惑をかけてしまった。

 自分で本を出すなんてこれまでもこれからもない機会だしと、ここを先途とばかりに自分のエゴが盛りだくさんの本にしてしまったけど、まわりの三国志ファンにはお世辞にしてもまあまあ褒めてもらえたし、「これは演義ファンのための本だ」「三国志にはいろいろな受容の仕方があったことがわかった」とまさに僕がやりたかったことを感想で書いてくれた人もいた。本当に、こんな幸運は全然あるものじゃない。すべて編プロや出版社の人、そして監修の渡邉義浩先生のご厚意の賜物である。

 

 それともうひとつ、同じ池田書店の『マンガでわかる源氏物語』(砂崎良著/上原作和監修/亀小屋サト絵)もかなりおすすめです。

 この本は単に『源氏物語』のおもしろさや表現の美しさを解説するだけじゃなくて、光源氏紫式部たちが共有していた、現実の平安貴族社会の構造と常識を踏まえて作品を読み解くことにも重点を置いている。科学的な文学鑑賞という、一般書としてはけっこう学術的な攻めたアプローチをした本だと僕には思えた。

 それで完全に言い訳になるけど、僕は執筆前のサンプルでもらったこの本がすごくおもしろくて、僕も『三国志演義』で同じことをしたいと、最新の『演義』研究の知見を――具体的には仙石知子先生や後藤裕也先生や竹内真彦先生たちの研究をばんばん盛り込ませてもらった。僕の本のマニアックさの責任の半分くらいはこの本にある。

 なので、もし僕の本が悪くないなと思ってもらえたなら、ぜひこの本とか、ほかの「マンガでわかる」シリーズも読んでみてください。きっと僕のよりもいい本です。

 

 

マンガでわかる三国志 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)

マンガでわかる三国志 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)

 

 

マンガでわかる 源氏物語 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)

マンガでわかる 源氏物語 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)