週刊『反三国志演義』、第三回
☆第三回 他人の刀を借りんとして周郎が計を設け
虚を実となして曹操が兵を興す
※文庫版98ページ〜109ページ
○あらすじ
劉備が荊州を得た事に、曹操・孫権はそれぞれ懸念を抱く。特に孫権は、かねてから狙っていた荊州を横盗られた嫌悪と、江東にとっての要衝を保持された現実的脅威とに悩まされていた。しかし周瑜はそれに対し、少なくとも当面すぐには劉備が脅威になることはなく、むしろ問題は合肥方面の曹操にあると述べる。そこで、曹操と劉備を争わせて漁夫の利を得んとする策略を上奏する。孫権これを良しとし、調略の使者に張紘を選んで許都に送る。
ところが曹操はその策謀をあっさり看破してしまう。そして二荀の進言に従って、呉の思惑通り劉備を攻めると見せかけ、逆に江東征伐に出陣するのであった。
○主な登場人物
・孫権
・曹操
・酒を煮て英雄を論ず(p99)
本作の解釈では、劉備は「天下の英雄は君と余」と言われただけで慌てふためき、それを取り繕うにも『論語』郷党篇という子供騙しな言い訳しかできない。曹操はその様な劉備の凡庸な様を見て安心したという。
『演義』のそれと比較すると、結論として曹操が劉備を甘く見た事に変わりはないが、劉備が真に才能を秘めているか否かという点で異なる。『演義』では劉備は曹操にその才能を看過されて動揺するものの、雷鳴に取り繕って自らの図星を隠した。曹操もそれに騙され、劉備の英雄性を見逃してしまう。
ちなみに『反三国志』の「煮酒論英雄」は、毛宗崗版に準拠している。箸を取り落とすのが落雷より先。
・『論語』郷党篇(p99)
『論語』郷党篇「盛饌有れば必ず色を變じて作つ。迅雷風烈には必ず變ず。」が出典。
意味は「孔子は、ご馳走があれば主人に謝意を示し、迅雷風烈があれば(それは天意の現れなので)顔色を変えて謹んだ」。「盛饌」とは馳走の意味なので、本書の本文で「盛饌あり、迅雷風烈には必ず変ず」とするのは意味がとれない。
なお劉備が言い訳にこの文句を用いることは、
『三国志』先主伝注引『華陽国志』の「聖人云う『迅雷風烈必變』。」
『演義』21回の「聖人迅雷風烈必ず變ず、安んぞ畏れざるを得んや?」
に由来する。
・呉侯(p107)
『三国志』においては孫権が呉侯に封じられたとのはっきりとした記述はない。孫策が呉侯だったのでそれを継いでいたとの可能性はないではない。
『演義』では38回以来、孫権を呉侯と呼ぶ。
○感想
とても短い回です。前の2回が30〜40ページあったことに対し、この第三回は10ページほど。次回から始まる魏呉決戦の序章となるような回ですね。
呉は、劉備が自分らを狙っていると曹操に思わせ、それによって曹操が劉備の背後を突かんとする事を期待していました。二虎競食の計というやつです。
対して魏はそれを看破し、表向きは呉の狙い通り劉備を攻めつつ、実は疲弊している呉を一挙に攻めてしまおうと狙います。こういう点、権謀術数に関しては本作でも曹操の冴えは健在ですね。
次回、濡須を舞台にして、『演義』の赤壁の戦いに相当する魏呉会戦が始まります。