三国与太噺 season3

『三国志演義』や、吉川英治『三国志』や、日本の関帝廟なんかに興味があります。

『李毛異同(3)』 ‐曹操の系譜

操の父曹嵩、本の姓は夏侯氏なり、中常侍曹騰の養子と為るに因りて、故に姓曹を冒す。(「毛本」第一回)

 一見すると妥当で客観的な紹介をしている様に思えますが、ここには毛宗崗の明確な曹操批判が表れています。
 毛宗崗が底本とした「李卓吾本」においては曹操の出自について、まず漢の功臣曹参の後裔であることを述べ、曽祖父曹節の仁徳を紹介し、曹騰が桓帝中常侍だったこと、曹嵩の官歴まで詳しく載せます。要は『三国志武帝紀の本文や裴注をほぼそのまま持ってきた訳ですね。そしてそれは同時に、図らずとも曹操の出自を賛美することになってしまっていました。
 毛宗崗がこれらを一括して削し、わずか23字で片付けた点を見ても、曹操を貶めようとした様子がわかります。しかも23字で述べられたのは「中常侍曹騰の養子と為り、姓曹を冒す」とその異姓養子に対する非難でした。


 毛宗崗がこの様に曹操の出自を貶めたこと、特に「曹参の後裔」であるという事を削りたかった理由は*1劉備との対比にありました。毛宗崗は評語にて「曹操の世系はかの如くであり、どうして中山靖王、景帝のそれと同じに論じえようか」と述べています。自分で曹操の世系を貶めておいて「同じに論じえようか」とは乱暴ですけど、劉備の正統性を高めるという点ではとても興味深い創作だと思います。

*1:この箇所のみでなく、例えば「李本」第四回でも王允が「汝の祖宗は漢朝四百年に禄を食み」と述べている所を「毛本」は削っています。全体として、毛宗崗が曹参と曹操の繋がりを避けたがってることが窺えます。
「毛本」が曹参と曹操の関係に触れるのはただ一カ所、第四十三回にて陸績が「曹操は猶お是れ相國曹參の後なり」と述べる箇所です。しかしこれにしても諸葛亮が「曹操はその様な漢臣でありながら、今漢室を乱している賊である」と非難、その上「貴様は袁術から橘を盗んだ陸君ではないか」「その様な小童の見識では高士と論ずるに足りない」と陸績を罵倒までしました。