『李毛異同(2)』 ‐劉備母を拝す
次日、桃園中において、三人焚香し再拜して說誓し曰く……。玄紱を拝して兄と為し、關羽これに次し、張飛弟と為る。(「毛本」第一回)
「毛宗崗本」では削られておりますが、「李卓吾本」においてはここで「共に玄徳を拝して兄と為し、関羽これに次し、張飛を弟となす。同じく玄徳の老母を拝す」と劉備母が顔を見せます。
なるほど義兄弟の契りですから、劉備の母は関羽・張飛の母でもあるんですね。当時の義盟の様子について、興味深いワンシーンです。
そしてこの様子は『通俗三国志』でもちゃんと訳出され、それによって『吉川三国志』にも引き継がれます。
「そうそう。ここの席に、劉母公がいないという法はない。われわれ三人、兄弟の杯をしたからには、俺にとっても、尊敬すべきおっ母さんだ。―ひとつおっ母さんをこれへ連れてきて、乾杯しなおそう」
急に、そんなことを云いだすと、張飛はふらふら母屋のほうへ馳けて行った。そしてやがて、劉母公を、無理に、自分の背中へ負って、ひょろひょろ戻ってきた。
「さあおっ母さんを連れてきたぞ。どうだ、俺は親孝行だろう―さあおっ母さん、大いに祝って下さい。われわれ孝行息子が三人も揃いましたからね」(1巻150頁)
とても張飛らしい、いい場面ですけど、実は「李卓吾本」から由来するものでした。
日本の三国志ファンは未だに「李卓吾本」と「毛宗崗本」を併せて受容するという、とても稀有な体験をしておりますけど、それはこういうちょっとした所に現れているのです。