三国与太噺 season3

『三国志演義』や、吉川英治『三国志』や、日本の関帝廟なんかに興味があります。

柴田錬三郎『三国志』(昭和27年)

 柴田錬三郎と言えばいわゆる「柴錬三国志」こと『英雄ここにあり』でよく知られていますが、柴田先生はそれ以前から児童向け、軽い読み物としてダイジェスト的な「三国志」小説をいくつか書かれています。本書はその中でもかなり初期に書かれたもののようです。
 何と言っても文庫本一冊にまとめておりますから、かなり大胆なカットと単純化をしています。その切り方などもだいぶ独創的で、子供向けとは言えどこれはこれで新鮮で楽しめます。
 オススメ(´・ω・)つ

三国志―柴錬痛快文庫 (講談社文庫)

三国志―柴錬痛快文庫 (講談社文庫)


 ところで以前に『英雄ここにあり』を紹介した時に、柴錬先生が『吉川三国志』に強く影響されていたことに触れました。
 「三国与太噺」-柴田錬三郎『柴錬三国志』(昭和41年)

 本書も同様と言いますか、依拠する度合いはそれ以上であり、もはや『三国志演義』のダイジェスト版ではなく『吉川三国志』のダイジェスト版と言う方が正しいかと思います。勿論作品冒頭の「桃園結義」までの様子も全く吉川流そのままです。ですから極端に言えば、『吉川三国志』という他人の作品を勝手に圧縮・アレンジして自分の名前で出版した海賊版、です。

 何故その様なことになってしまったかと言うと、本書が出版された昭和27年という年は小川環樹訳『三国志演義』が刊行される前年であり、つまり当時に「三国志」と言ったら『吉川三国志』以外に全くない時期でした。そのために実質的には吉川英治による歴史小説であるはずの『吉川三国志』が、事実上の『三国志演義』新訳であると見なされてしまっていたようです。
 柴錬先生が『吉川三国志』を「底本」としてしまったのはその為でしょう。
 そしてそれは読者には一層のこと、「劉備の母が登場する三国志」を印象づけてしまったことと思います。立間先生が『演義』全訳を刊行した際に「お前の翻訳は桃園結義をちゃんと訳していない」との抗議を受けてしまったのもムリないです。