三国与太噺 season3

『三国志演義』や、吉川英治『三国志』や、日本の関帝廟なんかに興味があります。

和製蛇矛の曲がりばな その1

 以前の記事で、張飛の蛇矛が「曲がりくねった」状態になるのは近現代になってからであるということ、『絵本通俗三国志』の蛇矛が今の形とは全然似ても似つかないことを書きました。

  「三国与太噺」‐丈八蛇矛の分かればな
 
 



 『絵本通俗三国志』は近世近代の「三国志」に最も大きな影響を及ぼした作品でありまして、たとえば明治中期頃から多数刊行された「三国志」の読本や絵本を見ると、ほとんどが「三叉の蛇矛」を描いていました。『絵本通俗三国志』の強い影響下にあって、張飛の蛇矛も三叉状が定着してしまっていたのでしょうか?*1






















 

 そんな中、滝沢馬琴南総里見八犬伝』でふと見つけた、この挿絵が気になっています。

 

 ここに描かれているのは八犬士のひとり、犬飼現八。
 場面としては、第165回の一場面「長阪橋より現八単騎にて大敵四万を懲退しむ」を描いたものだそうで、明らかに、『三国志演義』の「張翼紱 大いに長板橋を鬧がす」をモチーフにした場面であります。そしてその現八が構えるのも三叉槍・・・。
 『南総里見八犬伝』は文化11(1814)年から天保13(1842)年まで28年に渡って執筆された作品でありますが、本場面が含まれる巻38が刊行されたのは天保12年。同じく天保12年に完結した『絵本通俗三国志』が見られた可能性は、高いと思います。もしかしたら、両者の間で「三叉槍」が張飛を象徴する記号として共有されていたのでは・・・と思い、気になっているところであります。*2

*1:左から、『絵本通俗三国志』(東京同益出版社、明治17)、『三国志銘々義伝』(東洲堂、明治17)、『絵本三国志小伝』(菱花堂、明治19)。特に『絵本三国志小伝』は浮世絵師月岡芳年によるものとして知られています。

*2:ちなみにこの挿絵を手掛けたのは渓斎英泉という浮世絵師。有名ですか?