三国与太噺 season3

『三国志演義』や、吉川英治『三国志』や、日本の関帝廟なんかに興味があります。

三国志演義

弓館芳夫『三国志』(昭和16年)

桑原武夫先生の論文「『三国志』のために」はその中で、当時(1942年)に受容されていた「三国志」創作として3つの作品が挙げています。吉川英治の『三国志』、村上知行の『三国志物語』、そしてこの弓館芳夫の『三国志』ですね 。『村上三国志』については以…

『通俗三国志』の校訂は行われていたか

元禄年間に出版された『通俗三国志』は当時大変な人気であり、明治に至ってなお多数の出版社から繰り返し刷られていました。現在国会図書館が蔵書しているものに限っても、実に27種にもなります。 それらにはそれぞれ校訂者がついており、その中には東亜堂…

幸田露伴校『通俗三国志』解題の要約

明治期にとっても沢山出版された『通俗三国志』群*1の中でも代表的なエディションである幸田露伴校訂の『通俗三国志』です。 東亜堂から明治44年に出版されており、「明治版『通俗三国志』」としては後発の部類ですね。上田望先生の分析によれば流行の第三…

劉備は十七代目

(献帝)又問玄紱、「祖宗何人。」 先主、「本祖十七代孫、中山靖王之後。先君漢靈帝、因十常侍弄權、落於百姓之家。」*1 陳寿『三国志』では不明である中山王劉勝と劉備までの間の系譜ですが、こちら『三国志平話』ではその間に17世代あったとしています。 …

劉備の初恋 【芙蓉姫】

『吉川三国志』の数少ないオリジナルキャラクター、芙蓉姫。吉川流が光る序盤を象徴するようなヒロインです。 吉川オリジナルでありがなら、横光三国志や柴練三国志、三国志大戦など他の創作・媒体にも時々姿を見せるなど、三国志の和製オリキャラとしてはけ…

久保天随『新訳 演義三国志』序文の要約

久保天随『新訳 演義三国志』は、それまで湖南文山訳『通俗三国志』(李卓吾本訳)が大勢を占めていた日本においてし、初めての毛宗崗本完訳として1912年に出版されました。またあの吉川英治が少年の頃に愛読したとされていることでも有名です。*1 この叙…

曹操の失言

徐母曰:「劉備何如人也?」 操曰:「沛郡小輩,妄稱皇叔,全無信義,所謂外君子而內小人者也。」(徐庶母が言う)「劉備とはどのような方におわしますか」 (曹操が言う)「沛郡のいやしい家の出で、『皇叔』とか言いたてておるが、実は信義を知らぬ、外見は君…

昭烈帝の系統

俺が許都行った時ヒキョウにも「どうやって劉備が皇族だって証拠だよ」って言ったがバカすぐる、お前は中山靖王勝つの後胤っていう名セリフを知らないのかよこの系図なら劉備が皇叔なのは確定的に明らか。宗正とかゆうジョブが読むと曹操は真っ赤にしてうつ…

村上知行 『三国志物語』(昭和14年)

村上知行著、『三国志物語』は昭和14年に中央公論社から全3巻で出版された、「三国志演義」の翻訳本です。ただ全文完訳ではなく、作者によれば「三国志演義」の文章はあまりに冗長であるため、不用の部分、興味の乏しい部分を省略して訳したものだという…

李卓吾本と毛宗崗本の区別

自分が普段『三国演義』の訳本・翻案本を読む時、それが「李卓吾批評本」依拠か「毛宗崗本」依拠か、を見分けるために基準としている16項目です。 明治〜昭和初期の三国志モノを読んでいますと、その本が、李卓吾本の邦訳にして元来人気第一だった『通俗三…

吉川三国志 【劉安】

彼の嫁スープがなぜ高く評価されているかについては、渡邉先生と仙石先生の共著『三国志の女性たち』が詳しく、面白いのでぜひ読んでみてください。 また劉安は『三国演義』の架空の人物ですのでこの行為も宋明時代の価値観に基づいていると思われますが、た…

伊藤晋太郎「関羽と貂蝉」

伊藤晋太郎先生の論文「関羽と貂蝉」(『日本中国学会報』、2004)を読んだ感想ノートをそのまま記事にしました。 伊藤先生は言わずと知れた関羽をご専門にされている先生ですが、個人的にはこの論文では関羽よりむしろ貂蝉の人物像の変化についての方が興味深…

司徒荀爽

『三国演義』第六回にて、董卓が提案した遷都の計画を三公が揃って反対する場面がありますが、何故かそこで荀爽の官職が司徒となっているのです。直前に同じく反対意見を述べた楊彪も司徒と記されていますので、わずか数行のうちに司徒が二人も並ぶ始末、明…

并州刺史丁原 その2

丁原シリーズ第3弾です。 ・荊州刺史丁原(2011/4/4) ・并州刺史丁原 その1(2011/5/2) その時、ひとりが宴卓を押しのけてつかつかと進みいで、大声に叫んだ。……董卓が見れば、荊州の刺史丁原である。 この董卓との対決の箇所に関して、最初の記事では「嘉靖…

并州刺史丁原 その1

以前書いたこちらの記事の続きになります。 荊州刺史丁原(2011/4/4) 本来は并州刺史であった丁原が、演義類では"荊州"になっているということを、董卓と丁原の対決の場面から書いたのが前回の記事になります。 しかしこの部分を見逃しておりました。原文は李…

輸入された誤字 【夏侯鹹】

三国志を知りたての頃は、wikipediaのこのページを見て楽しんでいたものですが、その頃から地味に気になっていたコレをふとさっき思い出しました。 wikipedia「三国志演義の人物の一覧」 この部分です。 夏侯鹹・・・?何者なんだ・・・? さっと検索してみ…

『演義』版本で見る黒歴史 【夏侯傑】

『三国演義』の各版本によって、長坂橋で張飛に大喝されて落馬する人物が「夏侯傑」と「夏侯覇」とで異なっているらしいけどそこんところどうなのか。 というネタを先日いただきまして、大学に行ったときに見て参りました。追記で示しているように十種ほどの…

荊州刺史丁原

その時、ひとりが宴卓を押しのけてつかつかと進みいで、大声に叫んだ。……董卓が見れば、荊州の刺史丁原である。(立間祥介訳『三国志演義』第三回) 『魏書・呂布伝』によれば、丁原は実際には荊州刺史ではなく、并州刺史・執金吾を歴任している(沈伯俊『三国…

雑喉潤『三国志と日本人』

三国志と日本人 (講談社現代新書)作者: 雑喉潤出版社/メーカー: 講談社発売日: 2002/12メディア: 新書購入: 2人 クリック: 7回この商品を含むブログ (7件) を見る近頃吉川々々と言ってましたら、ツイッターにて薦めていただいた一冊です。先日から挙げている…

『三国志平話』における蒋雄、ほか

全相三国志平話作者: 立間 祥介出版社/メーカー: 潮出版社発売日: 2011/03/17メディア: 大型本 クリック: 21回この商品を含むブログ (7件) を見る ついに出ましたね! コーエーから出されていた中川先生・二階堂先生の訳本が長らく絶版になっておりましたん…

『吉川三国志』と『通俗三国志』の関係

『吉川三国志』が『通俗三国志』に影響されていることは、魏延暗殺未遂や漢の寿亭侯など、現代のぼくらが普段手に取る「日本語訳『三国志演義』」にはない、李卓吾本特有のエピソードを盛り込んでいることからよく知られています。 ですがさらに細かく見ます…

続・孫韶、出自の謎

昨日の記事の続きで孫韶です。 「三国与太噺」孫韶、出自の謎 『三国演義』第七回の一文、 「堅又過房兪氏一子,名韶,字公禮。」 はこれまでの『演義』日本語訳においてどのように訳されてきたのか。自分が閲覧できた限りの日本語訳『三国演義』で調べてみ…

孫韶、出自の謎

(孫堅の)兪氏という寵妾にも、ひとりの子があった。孫韶、字は公礼である。(吉川英治『三国志』*1 ) そもそもは、この吉川孫韶の意外な出自設定に疑問を覚えたことが始まりでした。孫韶が孫堅の妾の子だなんて、ちょっと聞いたことないなと思ったんです。 孫…

陳式陳寿父子説

あるいは祖父とする話もありますが、とにかく三国志ファンには大変有名な説だと思います。ぼくも知らず知らずのうちに頭に入っていたんですけど、改めて考えるとこれは一体何を情報元にしていたのでしょうか。 とりあえずウィキペディア「陳式」の項目を引き…

渡邉義浩・仙石知子『「三国志」の女性たち』

この前の第五回三国志学会で買った一冊ですね。 去年の二松で行われた講演会で触れられて以来、ずっと欲しかったんすよー。 この本は、『演義』のストーリー解説と仙石先生の論文との、ふたつのパートに分かれております。『演義』ストーリーはかなり丁寧に…

董卓五三公

司徒王允曰:「廢立之事,不可酒後相商,另日再議。」於是百官皆散。(『演義』第三回) 酒行數巡,王允忽然掩面大哭。眾官驚問曰:「司徒貴誕,何故發悲?」(『演義』第四回) 司徒楊彪曰:「關中殘破零落。今無故捐宗廟,棄皇陵,恐百姓驚動。天下動之至易,…